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【本】神はサイコロを振らない

ネタバレがあるかもしれないので、未読の方はご注意下さい。


大石英司著/中央公論新社/¥1800+消費税

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10年前からタイムスリップしてきた旅客機の乗客と、その間ふつーに"失われた十年"を過ごしてしまった人々の物語。起点は2004年の敗戦記念日なので、マイナス10年=1994年8月15日であり、生還した(?)乗客達はそれ以降に起きた事件を知らない。時は崩壊したとはいえバブルの余韻残る頃、阪神大震災も東京サリン事件もまだ起きていない。しかし、乗客以外はその変化に洗われ、恋人や親子といえども歳の差が開いたり縮まったりする。そこに生まれる様々なドラマを描いた小説。

作者と私の思想の違い、知識の差などからツッコミ衝動を抑えがたいポイントが山のように見つかるが、そのへんは基本的に触れないことにする。その代わり、この感想が作者の意図とは無関係、我田引水牽強付会なものになることについて容赦いただければ幸いである。m(_@_;)m

タイムスリップというあり得ない事件に巻き込まれた人々とその関係者達が10年の落差に起因する悲喜こもごものドラマを演じるわけだが、その"人々"のバリエーションが5歳児から犯罪者まで幅広いことが物語にも幅を与えている。加えて、"生還"から三日後には乗客が消える(死ぬ)という設定が、関係者に密度の濃い時間を過ごさせる。このため、読者も程良い緊張を保ちながら読み進めることができ、飽きることがない。作者は、恋人へのプレゼント本にも使えると言っているが、家族や恋人といった設定がちりばめられていることもあり、女性が読んでも感動できるストーリーに仕上がっているのは(自分が野郎だから保証はできないが)事実だろう。さすがとうならされる、年季の入ったプロの技だ。

作中人物の口を通じて時折語られる"失われた10年"へのコメントの幾つかは、おそらく我々への警句でもあり、作者の感慨でもあるのだろうか。そして、元の時空へと引き戻される運命にある事故機に積まれる過去へのメッセージが入った通信機。エピローグで明らかにされるが、その通信は過去の時点で傍受され、未来からのメッセージであることも明らかになるが、「誰も変えようとしなかったから」(318ページ、財部二佐)歴史は基本的に元のままで、事件を食い止めることはできなかった、というオチになっている。

物語の登場人物のみならず、現実の我々にももちろん過去を変えることはできない。しかし、過去を反省して未来を変えることならできる。冒頭書いた"失われた十年"という言葉は、バブル崩壊後の経済の低迷を表す言葉であり、今、「年金問題」が「とんでもない状況に陥」っている(興梠惣一郎/P.215)のも、経済運営がうまくいってないことに原因の一つがある。


そしてこの経済の低迷は、金融政策の失敗から生じているというのが定説であり、金融政策で変えることができる種類のものなのだ。現在の日本史の歩みはどことなく昭和恐慌当時と似てきているが、破局を迎えるかうまくかわすかのターニングポイントは幸いまだ先にある。破局を避けるため、精一杯の努力をしたいものである。